一般社団法人 信州古民家再生プロジェクト 代表理事 井上陽介
「眠る資源を最大限に生かすためには」
この法人は信州に眠る未だ活用されていない空き家や古民家等を、その地域に必要な施設へと作り替え、眠っている地域資源を活用し地域活性化を目指すことを理念に立ち上げました。私は元々信州大で学教育学を専攻していましたが、大学卒業後は教員にはならず自分の夢を追いかけ日本と海外を往来する生活を5年ほど過ごしていました。そして2021年8月奇妙な縁から、学生時代に住んでいた長野県長野市の隣、須坂市の地域おこし協力隊として長野県に戻ってくることとなりました。着任後、私は商業観光課「まちなかリノベーション部門」に配属され、須坂市の空き家や空き店舗の実態や活用方法を模索する中で、実に莫大な数の空き家が須坂市には活用されないまま眠っていることに気がつきました。同時に長野県は自然が豊かで関東都市圏からのアクセスも悪くなく、移住希望者は増加傾向にあると言われています。移住希望者はいるのに、空き家もたくさんあるのに、住める空き家がない。そのような現状が長く放置されていました。
「なぜ空き家はあるのに空き家がないのか」
須坂のみに限らず、家や建物が空き家の状態になっているままなのには、さまざまな問題や原因があります。また所有者に話を聞く機会も多々あり、空き家を活用して空き家を減らす動きに協力してもらえないか交渉するも、「両親が住んでいて他界後、遺品整理ができていない」「思い出もあり誰かには貸したくはない」「誰かわからない人に貸すのは不安」などなど、さまざまな理由で断られることがほとんどでした。しかし家に誰も住まないまま放置することは、その町の治安維持の観点からも、景観の観点からも、野生動物等の棲家となる可能性の面からも、よくないことは明らかです。もっとも最悪なのは空き家はあるが住める空き家がないから、新しく建てる。そして、その家もいずれ不要になり、また空き家が増える。現状にあるものを資源として使わない限り、地域の空き家問題は解決しない。
「あなたの育ったまちを良くするために人肌脱いでほしい!」
しかしそのような現状をいくら伝えたとしても、やはりどこかピンとくることは少ないもの。実際にこの家がどう使われるのか、どう必要とされているのかを伝えることはなかなかに容易ではありませんでした。その中でもなんとか思いに共感してもらい、渋々貸していただけた家をいかに町のために使い、周りに感謝される施設になったものを実際に見せることで、少しでも他の物件の所有者の方が「こんなふうに使ってくれるなら、私の家も貸してもいいかも、、」と言ってもらえるようにしなければいけない。
「狭いターゲット層に確実に愛される施設へ」
長野県という立地で何百人何千という利用者や需要がある施設を作ることは初期費用的な面でも運営維持費的な面でも得策ではありませんでした。たとえ補助金を利用し施設を作ったとしても、その後の運営費の作るシステムや方法が確立されていないと施設はすぐに破綻してしまいます。それではせっかく思いに応えて貸してくれた所有者の方も「せっかく貸したのに結局空き家に戻るのか」と今後このような取り組みへの協力を鈍くしてしまう可能性すら考えられます。
そこで私が考えたのは、万人受けしなくていいが、本当に必要としている人に届く施設を目指す、ということ。少ない需要を狙い、しかし確実に必要とされる施設サービスを作る。そして最低限の運営費や維持費で建物、サービスを維持していく。大きくお金儲けを考えるのではなく、施設をしっかり維持できる最低限の利益が生まれるラインでサービスを考える。こうすることで、細く長く経営できる運営体制を目指しました。
「施設は作って終わりではない。持続可能な施設運営へ」
現在、私は須坂市周辺で6件の元空き家を借りて、それぞれ「高校生の居場所づくり拠点」「中島地区地域交流拠点」「小布施シェアハウス」「DIY可能物件としての賃貸」など、さまざまな方向で地域に必要とされている施設の運営を進めています。この法人自体は設立してまだ1年。法人設立前の個人の段階で作った施設はすでに4年目を迎える施設もある。しかし大半はまだ完成して1年経たなかったり、現在改装中だったりの物件もある。これらの物件が本当の意味で地域に必要とされ愛され、そして持続可能な運営をできているかがわかるのは数年後先の話。
少ない人が確実に必要とする施設を町の中に何個も作る。そして、その全てが少ない利益で細々と運営されていく。それがたくさん集まればすごく便利な、みんなの痒いところに手は届く施設の集まった素敵な街が出来上がるのではないだろうか。何年かかるかわからないが、一歩一歩、少しづつ、精一杯地域の方と関わり、共に地域活性化に私は取り組んでいきたい。
2022年2月22日
一般社団法人 信州古民家再生プロジェクト
代表理事 井上陽介